2020.03.15
1990年代の半ばから日本の高等教育政策はその新自由主義的な色合いを強めてきた。とりわけ大学改革をめぐっては、「グローバル化」に対応するという題目の下、大学の事実上の市場化が進められてきた。具体的には、大学組織の問題として、企業における経営者に擬して国立大学法人における学長の権限が強められ、トップダウン型の組織への改組が進められた。これによって学生自治会はもとより、教授会の権限も著しく狭められてきた。また、財政上の問題に関しても、各大学に割り当てられる運営費交付金や私学助成金の総額が漸減されることによって、国公立か私学かを問わず各大学が学生獲得のために狂奔せざるをえない状況が作り出された。そればかりか目減りした運営費交付金や私学助成金を補う必要から、個々の研究者ないしは研究機関が競争的資金の獲得のため事実上国家や企業の利益に適う研究をすることを強いられるという状況が生み出されている。とりわけ第二次安倍政権の発足以後、国立大学に対して式典時に国旗掲揚や国歌斉唱を要請するなど、今日に至るまであからさまに新保守主義的な色合いを強めてきた。
全国大学院生協議会(全院協)は、『2015年度 第71回全国代表者会議 決議』において、上記のような大学改革の過程を総括的に評価し、第2次安倍政権以後、これまでの自己責任論・受益者負担論に依拠しつつも「国家による教育と学問の統制および一律の予算削減を全面に主張する点に異常な性格が存在する[1]」ことをつとに指摘してきた。こうした認識は、今日においても大局的には変わってはいない。確かに、2017年には給付型奨学金の制度化が実現し、運動の力が大きな前進に繋がったことは高く評価されて然るべきである。しかし、こうした諸制度の拡充も、それが大学院生を対象としていないことなどから限定的なものとして捉えるべきであろう。2019年の大学等修学支援法においても大学院生は支援対象から除外されている。 以下では、上記のような認識に立ち、今日進められている大学改革を、① 国家の高等教育政策、② 軍学共同の進展、③ 学費・奨学金の問題、④大学院生の就職問題という4つの角度から検討していく。
[1] 『2015年度 第71回全国大学会議 決議』3-13頁。なお、全院協は同年度、議長談話として「安全保障関連法制の廃止を求めます」を出している。