2020.03.15
現在、大学院生を取り巻く環境は、急激な変化にさらされている。
1990年代前半からの大学院重点化や大学改革の中、大学院生数は、90年の90,238人から急激に増加し、2000年に20万人を突破したが、現在は博士課程への進学者が半減するなど減少局面にある。また近年では、専門職大学院、留学生や社会人大学院生の増加により、大学院・大学院生のあり方もますます多様なものとなっている。このような状況の下で、大学院生の生活・研究環境の悪化が、全院協の毎年実施する経済実態に関するアンケートから明らかになってきている。2011年以降、大学院生数は減少傾向にあり、2016年度は249,588人となった。特に人文社会科学系において大学院生数の減少は著しく、大学院生の貧困、研究生活環境の悪化、雇用への不安が大きな要因であると考察される。
2019年度のアンケートからは、大学院生の多くが就職や経済的な不安を訴えており、大学院生の約8割がなんらかのアルバイトに従事している、奨学金借り入れ経験者の86.4%が返済への不安を抱えているなどの深刻な実態が明らかになった。
一方で、全院協運動の中心を担う加盟校は、1980年代前半の40大学をピークに減少してきた。この院生協議会・自治会の減少の背景には、大学院重点化政策による大学院生の「多様化」、競争的環境の下での短期的な業績の追求やアルバイトなどによる大学院生の「多忙化」をはじめとする問題が重くのしかかり自治活動そのものが困難になってきた現状があると考えられる。
このような客観的な状況があるとはいえ、全院協の意義はよりいっそう大きなものとなっている。それは、アンケート調査等から浮かび上がる院生の研究・生活の悩み・不安が大きくなっているということにあり、そして、それを解決するべく大学院生の研究・生活環境改善を訴えるのは、私達大学院生自身をおいて他には存在しないからである。もし、1年間何の活動も行わなければ、その間政治家の意識から大学院生は完全に消え失せ、いかなる政策でも通してしまおうということにもなりかねない。逆に継続的に要請を行うことで議員の中で大学院生の現状について関心や理解が広がれば、政治の状況を変えることにつながっていくはずである。これまで継続的に、(1)大学院生の実態を広く把握するために、アンケートの回答者を増やすこと、(2)アンケートに寄せられた大学院生の声を文科省や国会議員に伝えて政策に反映させること、(3)多様なネットワークを活かし、加盟校を拡大することを重要な課題に設定し、活動してきた。結果として、2019年度は859人からアンケートを回収し、省庁・議員・政党要請ではアンケート結果を元に報告書を作成し、大学院生の実態とその改善を訴えることができた。政党・議員要請には、大学生・大学院生のべ26名の参加があり今年度も様々な大学からの参加が見られた。本決議では、この間の情勢分析とあわせ、一年間の活動を総括し、来年度の活動への提言を行なう。第1章では、現在の大学院・大学院生をめぐる情勢を分析し、それらに対する全院協の主張をまとめる。続いて、第2章において本年度(2019年度)の活動を総括し、来年度(2020年度)への提言を行う。