第75回全国代表者会議決議(2020年3月)

075全代 第2章第3節 文科省レクチャー

2020.03.15

第1項 レクチャーの概要

 全院協では、2013年度より文科省レクチャーを行っている。レクチャーとは国政調査権に基づく国民の権利を背景として、国会議員を介して各省庁・部局に属する官僚から政策についての説明を受ける機会のことを指している。レクチャーの目的は、第1に概算要求前後に文科省の役人から直接に政策的なレクチャーを受けることにより、来年の政策の大まかな枠組みを把握することにある。また第2に、要請行動の事前準備という意味合いがある。時間や機会の制約がある要請行動に対して、レクチャーでは時間の制約がほぼ存在しない。また要請項目を具体的に深めつつあるこの時期において直接対峙することは、非常に有意義な機会である。今年度は9月25日に、参議院議員会館内にある日本共産党の吉良よし子議員の議員室にてレクチャーを行った。以下、レクチャーに関する報告を行う。

第2項 概算要求に関わる全院協の質問

 2020年度概算要求に関する全院協による質問の焦点は次の6点となった。第1に大学等高等教育費の多寡に関する評価について、第2に授業料減免等の拡充について、第3に日本学術振興会特別研究員研究奨励金の水準について、第4に大学院生のライフ・コースについて、第5にSociety5.0における人文・社会科学の諸研究分野の位置づけについて、第6に博士課程進学者の推移と、博士号取得者の減少傾向に関する評価について、である。

① 大学等高等教育費の多寡に関する評価について
 大学等修学支援法においては、授業料その他の学費の多寡については評価がなされていないが、どのように考えているか。 また国立大学法人運営費交付金および私立大学助成金の要求額の引き上げは、今後の学費そのものの引き下げも視野に入れたものと考えてよいのか。

② 授業料減免等の拡充について
 「高等教育局主要事項-2019年度概算要求-」では「国立大学・私立大学等の授業料減免等の充実」が独立した項目として立てられていたが、「高等教育局主要事項-令和2年度概算要求-」ではこれに類する項目はなくなっている。これによって国立大学・私立大学等における既存の授業料減免制度の体系が後退することはないか。

③ 日本学術振興会特別研究員研究奨励金の水準について
 日本学術振興会特別研究員研究奨励金、いわゆる学振は給与としての性格にも関わらず、その支給額は全国一律でかつ不変のまま推移してきた。そのためそれは社会経済的条件の変化の過程で相対的に低水準なものとなりつつある。とりわけDC1・2は、月額20万円であり、この額は「平成30年賃金構造基本統計調査」の結果から得られる「大学院修士課程修了」者の初任給を4万円近く下回る。社会保険料等の負担増を勘案すれば、むしろ少額に過ぎるといってもよい。この点についてどのように認識しているか。

④ 大学院生のライフ・コースについて
 大学院生は博士号取得まで、最短でも5年間を要する。したがって、研究職その他の恒常的な稼得を与る職業に就くまでに、かなり長期の修学期間を要するわけであるが、大学院生の結婚、出産、育児等々のライフ・コースについてはどのように考えているか。具体的には、「私学助成関係予算」でも「女性研究者をはじめ子育て世代の研究者のための環境整備の促進」が謳われているが、どのような施策が考えられているのか。

⑤ Society5.0における人文・社会科学の諸研究分野の位置づけについて
 令和2年度概算要求ではSociety5.0というタームが頻出している。しかし、Society5.0に関する記述中、人文学のような必ずしもAI・ビッグデータと直ちに関連しないような研究への具体的な言及は見られない。こうしたSociety5.0に関連しない人文・社会科学は支援の環から取り残される危険性があるが、これらの研究の位置づけについてどのように考えているか。

⑥ 博士課程進学者の推移と、博士号取得者の減少傾向に関する評価について
 「卓越大学院プログラム」においては、背景・課題として「優秀な日本人の若者が博士課程に進学せず、将来において国際競争力の地盤沈下をもたらしかねない状況に対応する必要」が挙げられているが、博士課程進学者の推移について、どのように考えているか また、博士号取得者の数はOECD諸国においては日本のみ減少傾向にあるが、その理由についてどのように認識しているか。

 以下、上記の論点に沿った形で2020年度概算要求に関する文科省側のレクチャーについて述べる。なお、以上のような質問をする際の基本的な資料は8月末時点までに概算要求書としてまとめられる。ホームページ上から誰でも入手することが可能である。

第3項 レクチャーの回答と全院協としての位置づけ

 以下、レクチャーで得た詳細な回答の中から、前項に挙げた論点に関する部分について掲載する。

①について
 学費については、充実した教育研究環境の整備という観点から、教職員ですとか教育設備に関して、大学運営に必要な経費に充てるものだと考えています 。そもそも大学が教育研究環境の整備に、それぞれがどういった考えで設定していくものだと、また各大学が適切に設定していくものだと考えますので、今回の新制度は、真に支援の必要な低所得の学生の皆さんに対して確実に授業料の減免と学生生活を送るのに困らないように給付型の奨学金を支給するという趣旨で制度化されたものですので、なので授業料や学費は直接関係するものではないと。

②について
 今年は、あの修学支援制度の方と一体的に検討するということで、いくらいくらという額をだせなくなっていて、通称「事項要求」となっておりまして、予算編成までに新制度と一体に検討するということになっています。なので現時点で、いくらいくらで要求しました、というものはないと。修学支援制度の説明に、一体的に検討するものと書いています。なので項目として書かれていないから、後退するということはありません。

③について
 まず確認として、「給与としての性格にも関わらず」とされていますが、労働の対価としての給与というよりは奨学金に近い感じです。研究者、ドクターコースの方たちが自分の研究に専念できるように生活費程度を支援するという仕組みになりますので、給与という形とちがうということはまずご理解いただきたいということになります。その前提で私もこの調査(※「平成30年賃金構造基本統計調査」)を調べたところ、確かに初任給24万数千円という数字が出ていて、実際DCの方たちが得られるのは月額20万円ということで差があるじゃないかと。この月額20万円が設定された経緯としては、ドクターの方への支援という形で設定されたので、働いている方の初任給と、調整があってですね、学生という身分であるということで、少し0.8がけされているということで、計算にはなっています。ただし、それに加えてですね、昨今、もともと月額20万円を設定した前提としても、修士課程で卒業した人の教育職の俸給法の初任給をもとに換算していて、それも20万円より少し高い数字であって、やはり差額はあってとどいていないというのはそのとおりなんですけど、私どもとしては毎年財務省のほうに増額要求をしているのですが、なかなか認められないという経緯があって、今年度の概算要求においては消費税増税分の2%分だけ、月額に増額した分だけ、まず単価の引き上げ要求はしています。一方でですね、単価をふやすのではなく数を増やしたいと、今、単年度で1700人くらい支援を行っていますけれども、概算要求では2600人くらい支援を行なえるように額は固定なんですけれども、広く数を増やせるような要求を概算要求で行なっているところです。金額は状況にもよりますので、今後変わっていくかもしれませんが、今年度の要求ではまずは数を増やすということで要求をしているところです。

④について
 ライフ・コースについてどう考えているか、ということへのご回答はなかなかむずかしいな、と思うのですが、個人の経験に照らしていえば、大学院に在籍していたことがありまして、博士号をストレートに最短5年でとっている人は私のまわりにはあまりいらっしゃらなかったなと、個人の経験として思ったところです。「研究職その他の恒常的な稼得に与る職業に就くまでに、かなり長期の修学期間を要する」というのはまさにその通りで、すこしポストが空けばすぐに応募が集まってなかなかそういった職業に就けないということは見たことがあります。ですので、そのなかで、結婚されたり、出産されたりということについて、ご苦労されているのを見てきたところであります。そういった状況で「私学助成関係予算」というところで、「女性研究者をはじめ子育て世代の研究者のための環境整備の促進」というのがあるのですが、例えば、大学の学内で保育施設を構築しているであるとか、仮にその出産ですとか育児ですとか、ライフ・イベントというのですかね、そういったものが在るときに大学の中でそういう研究者にたいして、どういう支援をとっているかと、そういう支援体制を構築している場合に、実際に予算を配分する時に、そういう取り組みをしている大学には上乗せをしてあげるといった、そういった形でこの予算が認められた場合には制度設計していこうかなと考えているところであります 。

⑤について
 人文社会科学の位置づけですが、文科省としては、重要な分野だと、ほかの分野と同じように重要な分野だと考えておりまして、具体的にはですね人文社会科学分野を支援するということで日本学術振興会の事業として、新規の領域を開拓するプログラムですとか、実社会、実務者の先生方と共同しながら実社会に対応していくプログラムですとか、あるいは国際共同研究を進めていくといったプログラムですとか、こういったものを運営費交付金のなかで要求させていただいております。こういったものに加えてですね、あとこれも運営費交付金のなかでですが、人文社会科学で得られた研究データ、こういったものが散逸してしまうというのに問題意識を感じて、拠点整備を支援するということもやっています。またこれに加えて、今年新規で要求しておりますが、なかなか大きなテーマで研究を進めていくというのが難しくなっているという状況がございますので、そういった研究課題をですね、作り込んでいく場を構築する環境整備、こういったことも新たに要求させていただいております。人社に特化した施策は今申し上げたようなものになりますが、ほかには例えば科研費は当然ながら人社もターゲットにして支援をしておりますし、共同利用共同研究拠点の環境整備も人社の拠点、こういったことも大学等に支援を行っています。こういったことで文科省としても、人社の振興を図っていきたいと考えております。

⑥について
 確かに10年前、進学率がピーク時のとき17%ぐらいだったときからずいぶん減少して現在9%ほどとなっており、この減少している傾向というのは、後のOECD諸国との比較とも重なるんですが、博士号を取得している人間というのが、日本とOECD諸国とを比較すると日本は約2分の1と、今後のSociety5.0といった時代に鑑みると、日本の研究力ですとか技術的な意味でもありますし今後の成長という意味でも地盤沈下は免れないのではないかという形で、文科省としても、中教審でもしてきされていますし、この傾向はよろしくない傾向だと認識をしております。この理由としては大学院の教育の中身と、あと出口、社会側が求めている大学院卒の方の資質、大学院生が身に着けている能力にギャップが生じていて、それが就職、キャリア・パスが定まらないことにつながったりですとか、あとは大学院、キャリア・パスがつながらないですとか、大学院在学中の経済的な負担ですとか、そういったところに不安が生じていて進学者が減っていると認識をしております。それに対応するために、まだちょっと個別の大学に対応はできていないのですが、卓越大学院プログラムですとか、大学院教育のなかみの改善をはかって、卓越した博士人材を育てるような教育を行っている大学さんへの支援を行ない、その成果を他の大学にも横展開していくといった形で大学院教育の改革を行っていきたいと考えております。

第4項 レクチャーの分析と来年度への提言

 本節冒頭でも述べたように文科省レクチャーの目的は、第1に概算要求前後に文科省の役人から直接に政策的なレクチャーを受けることにより来年の政策の大まかな枠組みを把握し、第2に要請項目を練り上げる上での情報を引き出すことにある。

 以上2点の目的に照らして、2019年度のレクチャーは大学等修学支援法の実施に向けた大きな制度改変の渦中にあって、隔靴掻痒の感のあるものとならざるを得なかった。大学等修学支援法の実施に伴って既存の学費減免制度がどのように変化するかといった論点については曖昧な返答が目立った。また高度情報社会化に対応した研究を求めるSociety 5.0に向けた取り組みなども人文社会科学分野との関りでは非常に抽象的な回答に終始していた。

 とはいえ、学振を「奨学金に近い感じ」のものという担当者の説明を引き出したりと、今後の反批判の材料になりうる発言も見られた。2019年度の要請行動では、この機会に引き出した文科省の説明に照らして質疑応答の内容を戦略的に詰める作業をすべきであったが果たせなかった。

 学部段階に限って言えば、年が明けた段階で既存の学費減免制度の改悪が報道されるにおよび、今日的にはレクチャー時の文科省の説明との間に食い違いも見られる(文科省は、制度は後退しないと説明していたが、実質的な後退が生じている)。2020年度の文科省レクチャーも、2021年度概算要求を受けて実施することになると思われるが、時たま見られる曖昧な発言を追及し、要請時の議論に活かしていくことが望まれる。なお、毎年度レクチャー時に質問している科学政策の方面での文科省の回答についても批判的な検討のうえ、SNS等を用いて積極的に発信していくことが望ましい。