2020.03.15
大学院生の自治会・協議会によって構成される日本で唯一の全国組織である全院協にとって、要請行動は活動の重要な柱の一つである。アンケート調査で把握・分析した大学院生の生活・研究・経済実態から院生共通の要求をまとめ、関係省庁・政党および議員への要請を通じて、大学院生の研究環境の改善を求めている。アンケートから浮かびあがる大学院生の切実な声を拾い上げながら、それらを日本社会にとどまらず高等教育政策の国際比較を含めた広い文脈に位置づけ、個々の院協・自治会では解決することが困難な奨学金や高学費問題など日本の高等教育政策について、要請を行っている。
また、省庁・議員要請は、全院協活動の中でも最も多くの大学院生が参加する機会であるため、ともに院生活動を取り組む仲間との意見交流の場としても貴重な機会となっている。
2019年11月22日に、文部科学省ならびに財務省、各国政政党、衆参両議員に対して要請を行った。
要請行動にはのべ26人が参加した。文部科学省では、①国際人権A規約第13条2項(c)にもとづく高等教育の漸進的無償化、②研究生活の基盤となる経済的支援の抜本的拡充、③大学院生および博士課程修了者の就職状況の改善、④国立大学運営費交付金、私学助成の拡充、⑤大学院生のライフプラン実現支援の強化、⑥行政府による大学院生を対象とした研究・生活実態調査の実施の6つの項目を掲げて要請を行った。省庁の回答として、就職状況に関しては現状のプロジェクト雇用の雇用期間を長期化することなどによって改善を図っていきたいと考えていることなどが明らかとなった。他方、大学等修学支援法との関りでは、今のところ世代的な公平性という観点から同法の適用対象に大学院生を含めることは考えてはいないといった主張も繰り返された。また一部国立大学法人における授業料の値上げや、奨学金制度の改善といった論点については具体的な回答が得られなかった。続いての財務省要請では、「運営費交付金という形での国への依存度を下げたい」という従来の方針に固執する姿勢が見られた。また、他のOECD諸国に比して日本のGDPに占める教育関係予算の総額が著しく低いといった点についても、等分して1人当たりの額面で見れば遜色がないため、不当とはいえないといった従来の主張が繰り返されるにとどまった。
政党要請では、野党の国民民主党、社会民主党、日本共産党、立憲民主党、れいわ新選組に要請を行うことができた(ただし、れいわ新選組は発足後まだ日が浅く、議員対応が難しいとのことから政党本部への資料の提出に止まった。自民党は民主団体の陳情は受け付けていないという理由で拒否された。公明党に関しては、陳情は受け付けているが、多忙を理由に拒否された。日本維新の会は連絡がつかず断念した)。要請行動を経て議論の場を持ちえたすべての政党が、大学院生の置かれている現状について高い関心を持っていることが明らかになった。議員要請においても、自由民主党をはじめ約20名程度の議員ないしは職員、秘書の方と懇談することが出来た。多くの国会議員と直接懇談し大学院生の実態を伝え、中には1時間近く真摯に耳を傾けてくれた議員もいた。
今回の要請は、特に学費値上げ問題や大学院生の実態について広く賛同・共感を得ることが出来た。このことは学費問題が大学院生だけでなく、社会・世論に大きく影響しその結果として、活動に対しても共感を得る状況に繋がったのではないかと考えられる。この流れを断ち切ることなく、世論に対して訴えていく必要がある。