大学院生の研究・生活実態に関する
アンケート調査

2018年度アンケート調査結果

2018.12.06

報告書PDFファイル

報告書の概要 全文

はじめに

 全国大学院生協議会(以下、全院協)は、大学院生のアルバイト・奨学金といった実態を把握するために、毎年「大学院生の研究・生活実態に関するアンケート」を実施しています。今年は15回目にあたり、2018 年6 月11 日~9 月30 日に実施しました。ご協力していただいた皆さまに、この場を借りてお礼申し上げます。

 本調査ではこれまで、アルバイトによる研究への障害、奨学金という名の多額の借金、大学改革や厳しい就職難の中での大学院生の心理的負担について明らかにしてきました。今年も次項より掲載するような大学院生の実態を元に、文部科学省や国会議員への要請を行います。

(1)調査目的

 本調査は、大学院生の経済実態を客観的に把握し、もって大学院生の研究及び生活諸条件の向上に資することを目的としている。2004年度から経済実態に関するアンケート調査を行ない、それを報告書としてまとめてきた。今回の調査で15回目となる。

(2)調査状況

  1. 2018 年6 月11 日~9 月30 日に実施した。
  2. 調査は紙媒体・Web 両方で行い、702 人からの回答を得た(2017 年度は804 人)。回答者の所属する大学数は増加し、過去最多となる国公私立大学126 校だった(2016 年度は118 校)。

(3)回答者属性

  1. 男女比は男性59.6%、女性37.7%、その他0.9%、回答の意思なし1.9%である。
  2. 年齢構成は、20〜24 歳が39.4%、25〜29 歳が39.4%、30〜34 歳が10.0%と続いた
  3. 学年は、修士課程1 年(M1)、修士課程2 年(M2)がそれぞれ26.3%と24.9%、博士課程1年(D1)、博士課程2 年(D2)、そして博士課程3 年(D3)が、それぞれ12.7%、11.3%、そして13.3%だった。
  4. 設置形態については、国立大学法人が68.2%、公立大学が8.1%、私立大学が22.5%と、国立大学法人に在籍する大学院生からの回答が特に多かった。
  5. 学系については、人文社会系、社会科学系、理・工・農学系、教育学系がそれぞれ、22.7%、20.5%、33.7%、9.3%だった。
  6. 留学生は9.0%、社会人院生は17.2%だった。

1.多くの大学院生がアルバイトに追われ、研究に支障を感じている

■国立大学においても学費50万円、私立大学においては100万円以上が2割弱

 学費負担は大学院生における研究生活の大きな障壁である。図1 は大学院生の学費負担額の分布を所属機関別に示している。国立大学所属であっても40 万円以上の学費を負担する大学院生が75.9%もおり、私立大学所属の場合には、60~100万円程度負担する大学院生が40.5%、100万円以上負担する大学院生も17.1%おり、こうした高額の学費負担は、収入の乏しい大学院生にとって重い経済負担である。

 高額な学費負担に応じて、多額の奨学金の借入をする大学院生も多く、図2 に示す通り、44.5%の大学院生が300万円以上の借入、21.8%が500万円以上の借入をしている。

 本来ならば奨学金制度はその趣旨として、大学院生の学費負担を軽減し、経済的条件にかかわらず研究と生活を可能にするはずである。しかし本調査において、研究や生活に経済的条件による影響があることから公的・私的な援助が必要であるはずなのに、実際には奨学金などの援助制度の対象となっていない大学院生が相当数存在することが明らかになった。

■経済的負担を感じながらも奨学金制度を利用しない大学院生もいる

 まず奨学金の利用に関してである。図3 には、給付・貸与どちらも奨学金を利用したことがないとアンケートで回答した大学院生(251 名)が訴える、収入の不足による生活への影響を示した(複数回答可)。70.3%の大学院生が何らかの生活できたしている支障があると回答しており、特に19.5%の大学院生が「心身に不調をきたしている」と回答したのは重大な問題である。

 それでは、これらの人々はどうして奨学金制度を利用していないのだろうか。図4 には、奨学金を利用しておらず、かつ何らかの生活で来している支障があると回答した大学院生が奨学金を借りない理由を示した(複数回答可)。この結果では、「借金をしたくないため、返済に不安がある」と回答した大学院生が最も多い(54.5%)。「奨学金を必要とはしているが、返済に対する不安から借りない」という大学院生が、アンケート調査全体でも11.3%と相当数いることが示される。このように、奨学金制度を必要とするはずの大学院生でも、相当数が制度を利用できず、生活に影響をきたしている実態がある。

 自由記述における回答でも、

 大学時代に貸借した奨学金を返すめどがつかず、大学院では奨学金を借りれない。働いて貯金して取り崩して生活している。将来だけでなく現在の生活が不安。(D3、女性、国立大学)

 と、奨学金が必要なはずであるが利用できていないことを示すと考えられる回答がある。

 博士課程に対する援助制度について着目すると、日本学術振興会特別研究員制度(以下、特別研究員制度)の利用率が低い。実施機関の日本学術振興会のデータにおいても採用率が低いが1、本アンケート回答においても利用していない大学院生が91.3%にのぼる。この特別研究員制度を大学院生が利用していない理由を図5 に示した。

 「制度自体を知らなかった」という回答が18.9%と、修士課程の人を除いて、2番目に回答が多い。また、「採用されないと思った」という回答も3番目に多い。奨学金制度と同様、本来対象となるべき大学院生であっても利用できていない者が、こうした回答をしている可能性がある。

■大学院生は授業料や生活費のために、やむを得ずアルバイトに従事する

 多くの大学院生が学費や生活費のためにやむなくアルバイトに従事している。学外のアルバイトに従事する非社会人の大学院生では、図6の通り、83.4%が生活費のため、59.7%が学費・研究費のためにアルバイトをしている。また、図7の通り、調査・研究費の支出源では、アルバイトによる大学院生が36.9%で最も多い。

 アルバイトに従事する大学院生の多くは、労働によって研究時間を圧迫されている。アンケートでアルバイトなどの労働が研究にもたらしている影響が、「かなり影響している」または「多少影響している」と回答した大学院生は55.0%にのぼる(N=695)。さらに大学院生が研究時間を確保できていない理由を図8 に示した。

 なお、研究時間が確保できていない理由で、「アルバイト・仕事」、「非常勤講師・TA・RA」のどちらかあるいは両方と回答した大学院生は38.7%いる。また前記の奨学金を利用していないながらも生活に支障をきたす大学院生についてみれば、アルバイトが研究時間に支障を及ぼすと回答した割合が45.0%と、全体より10 ポイントも高い

 このように労働による研究への影響を多くの大学院生が受けていることは、現状の奨学金制度などの援助が十分に大学院生の経済的負担を緩和していないことの一例といえる。

 最後に、このように援助制度があっても研究や生活への負担が残る大学院生がいるそもそもの原因は、大学院生にとって大きな負担である3 ページで指摘した高額な学費負担であり、授業料無償化によって根本から取り除く必要があることを指摘しなければならない。

2.大学院生の精神的負担は極めて重い

■学年が進むごとに借金が重なり、多くの大学院生が返済に不安を抱いている

 以上のように奨学金=借金は、大学院生に大きな不安感をもたらしている。図9のように、奨学金借入経験者の87.6%が、返済への不安について「かなりある」、「多少ある」と回答した。これは、直近7 年間のアンケート結果の中でも最大値である(2012年:81.7%、2013年:80.4%、2014年:74.7%、2015年:84.6%、2016年:86.8%、2017年:85.0%)。また、「修士課程」・「博士課
程」・「それ以上」と進むにつれ、不安があると回答する大学院生の割合は増大している。

 また、図10 のように、借入額が大きくなるほど返済への不安もまた大きくなる。700 万円以上の借入をしている大学院生の、93.9%が返済に不安を感じている。大学院生が、社会に出る前に大きな借金を背負うことの精神的負担の重さを示しているだろう。

■研究の見通しだけでなく、経済的問題、就職難に不安を抱いている

 大学院生活での研究・生活上の懸念については図11 の通りである(複数回答可)。懸念事項として最も多く挙げられているのが「生活費の工面」(68.1%)であり、次に「研究の見通し」(67.6%)、「就職」(65.6%)となっている。また、それに続くのは「研究費の工面」(44.8%)「授業料の工面」(43.3%)「奨学金の返済」(38.6%)と、いずれも経済的負担に関連する項目である。このことからは、研究のみならず、経済的困窮が大学院生にとって大きな懸念事項となっていることがわかる。また、経済的な要因の他にも、「ハラスメントなど、人間関係」が20%以上と高く、経済的な支援と合わせて対策の検討が必要な課題がある。

■大学改革の中での競争主義・業績主義を、大学院生も実感している

 「研究生活の中で、成果主義や業績主義の傾向を感じていますか」という質問に対する、課程別の回答を図12に示す。「感じている」と回答した大学院生は全体で56.6%に上る。特に学年が上がることで、より成果主義・業績主義を感じている割合が多くなっていることは注目すべき点である。

 次に「成果主義や業績主義の傾向はあなたの研究に良い影響・悪い影響を与えていますか」という質問をした結果が図13 である。全体の約半数である49.5%が「わからない・どちらともいえない」と回答し、19.6%が「よい影響を与えている」、31.0%が「悪い影響を与えている」と回答した。

 昨年度(それぞれ27.5%、25.8%)と比較して、「悪い影響を与えている」との回答が増加していることは注目に値する。さらに具体的に質問をすると「良い影響」と回答した大学院生のうち95.8%が「研究成果を上げるためのモチベーションとなる」と回答した(複数回答可)。また「悪い影響」と回答した大学院生のうち80.5%が「研究成果を上げることへのプレッシャーになる」と回答した
(複数回答可)。このことから、成果主義や業績主義を大学院生も受けながらも、個々人によってその受け取り方が異なることが考えられる。ただし、注目すべきは、「悪い影響」と回答した大学院生のうちの75.8%の「短期的に成果が求められ、長期的にじっくり研究ができない」と回答し、53.9%が「成果の出しやすい研究テーマへ変えることの必要性を感じる」との回答である。成果主義・業績主義の圧力は、長期的な研究への取り組みを困難とする環境を作り出す一因となっていると考えられる。

3.人間関係の悩みを抱えている大学院生は少なくない

■ハラスメントに悩む大学院生の声

 約2 割の大学院生が、大学院生活での研究・生活上の懸念として「ハラスメントなど、人間関係」を挙げている(図11)。自由記述でも人間関係の悩みについて多く声が寄せられており、その中でも、指導教員や先輩の院生からプレッシャーをかけられる、心無い発言で傷つけられるなどのハラスメント被害の報告が目立っている。以下、自由記述を一部紹介していきたい。以下、自由記述を一部紹介していきたい。

自分で大学の授業料を捻出する事が研究に支障をきたしているが、大学の指導教官が成果主義のためプレッシャーを感じる(D2、女性、私立大学)

生活面で、指導教員との問題を抱えている学生(自分を含む)が周囲に多いと感じる。特に、生徒のやる気を削ぐような思慮にかける発言を平気でする教員が指導教員の場合、研究内容と指導教員の専門分野が合致しているため指導教員を変えづらく、大きなストレスになっている友人もいる。(休学してしまうなど)(M2、女性、国立大学)

教授からアカハラに近いものを受けており困っているが、中々相談できる機関がなく、もし自分が言ったことが教授の耳に入ったらと思うと恐くて打ち明けられずにいる。(M3、男性、私立大学)

長文のメールで説教がきたり、嫌味な言い方をされたりして、ストレスに感じています。(中略)研究室の身近な先輩なので、下手に大きく出て雰囲気が悪くなるのも嫌です。そのため大っぴらに教員などに相談ができていない状態です…。(M1、女性、公立大学)

また、教員による女性差別や障碍者差別、それに準ずる発言や行動があったという報告も自由記述で寄せられた。

教員からの女性蔑視発言や、ドクター進学予定者との指導内容やサポート内容の差別(M2、女性、国立大学)

発達障害を持つ学生に対しての障害を理由にした教授から学生へのパワーハラスメント、本人の許可を得ない状態での第三者へのアウティング(障害を持っていることの暴露)があった。(M1、女性、公立大学)

 以上のようなパワハラ・アカハラ・モラハラ等は深刻な問題であり、研究や健康状態に支障をきたしているというケースも少なくない。これらの悩みを個人の力で解決することは困難であり、学内や外部からの支援が必要であるが、他に相談できる教員がいない、学内にハラスメントの相談窓口がないなど、解決できるような環境がないという問題もある。

■大学院生は使い勝手のよい部下ではない

 教員からのハラスメントは大学院生という弱い立場につけこんだ悪質な嫌がらせであるが、その他にも院生という立場を利用して業務を押しつけるといった、まるで大学院生を便利な部下のように使っている教員や学会が存在するという報告も受けた。

 学内におけるボランティアの雑務が多く、心身に支障をきたしている。指導教員と適切な関係を築けているようでいて、「いいように使われている」と感じることが増えてきた。科研費RAの雇用切りなどにより、本来支払われるべき給与が支払われないままボランティアを続けているため不満が募る。(D3、女性、国立大学)

・アカハラ、パワハラとして具体的に問題化できる案件が身の回りに多くあること
・この点に関わって、大学院生を無賃で業務・雑務(小規模な学会、研究会の運営や教授陣に個別に依頼のあった教育活動の実施等)に就かせる習慣が身の回りで横行しており、かつそうした体制に依存した運営・業務実施が当たり前のものになっていること
・結果として、上記のような環境への適性を持っていない院生が、研究に集中できなかったり、研究への意欲が削がれたりしていること(M2、私立大学)

 学内学会の運営が負担になっている。ただでさえ進学者が少ない状況で全く学会の運営を縮小しようともせず、大学院生に丸投げにしており、各研究室で人の取り合いになっている。私自身、2 つの学会の総務と会計をすることになり、非常に不安である。一貫制博士課程だが修士で出る人も多く、そのぶん院生の負担になっている。実質学内学会はOB の発表の場で、発表の機会も博士まで行かない限りなく、2 年で出る人にはメリットもない。またOB のための学会である一方で仕事は院生まかせで給料もほとんど出ない。(M1、男性、国立大学)

 以上からもわかるように、大学院生は「研究者でありながら学生である」という立場から、様々な業務をボランティアとして頼まれやすいという実態がある。勉強になるからといって無給で業務を引き受け続ければ、その分自身の研究に支障が生じることは明らかである。このような問題に関しても、相談や報告ができる機関や制度が保障されていなければならないはずである。

4. その他の要点として、自由記述より寄せられた声

■ライフプランの実現で困難を感じる大学院生

…学振一年目から親の扶養から外れることにして独立家計として授業料免除を申請し、半額免除を受けていました。2017 年度も、結婚して生活費が上がったこと、および海外留学を予定しているため少しでも貯金したい旨を申告したうえで授業料免除申請をしたところ(妻の収入も申告)、授業料の免除が認められなくなりました。…たしかに見た目上の世帯収入は増えましたが、それは自分の授業料をまかなうためだけのものではなく、二人の人間が生活するためのお金です。結婚して二人で住むための部屋に引っ越したため、家賃も倍近くになりました。学振の「研究奨励費」のみでは、生活費をまかないながら授業料全額を支払うことはできません。各種保険料は毎年あがり、額面上20 万の「給料」は実質手取り16 万円程度です。これでは、大学から「授業料は配偶者に払ってもらいなさい」と言われているも同然です。そして結局、授業料は妻の貯金から払ってもらわざるを得ませんでした。
 このような状況では、研究とライフプランの適切なバランスを維持することは困難で、研究を続けることへの不安を増長させ、研究の継続を断念する学生がますます増えてしまうのではないかと思います。毎年多くの授業料免除申請を受け付け、膨大な事務作業をおこなっていることは承知しています。しかし、申請書類にその記入を求めている各申請者の事情を審査に取り入れ、より柔軟に制度を運用することを求めます。(D3、男性、国立大学)

 保育園の入園申し込みに際して、非常勤講師の「労働時間」は純然の「授業時間」(…)しかカウントしてもらえませんでした(授業準備の時間や自分の研究時間は含めてもらえなかった)。自治体によって詳細は異なるのでしょう・・・。“小学校教師・看護師・保育士等の職業の方と同程度のポイント加算を”とまでは言わないけれども、非常勤講師の教職+研究職という立場の独自性(正規の研究職に将来つくための教歴作り+業績作りのプロセス)に対して、今後社会的な理解がより深まっていくことを期待しています。(OD、男性、国立大学)

■研究者としてのキャリア形成への不安

 就職口や研究費支給の募集に際して博士号取得を要件とすることが増えているなど、社会全体において、人文社会系の博士号と理系のそれの取得にかかる年数が大きく異なるという現状・研究特性を十分に考慮していない傾向が強まっていると強く感じる。そのため、人文社会系の大学院生に対して、学部を卒業してから博士号取得までの間の補助が手薄になっていると強く感じる。競争的資金の獲得という方法は、すでに大学等でポストを得ている人にとっては有益かもしれないが、大学院生(や若手研究者)にとってはデメリットの方が大きいと強く感じる。(D3、男性、国立大学)

 各大学院が院生の就職活動(特に大学・研究機関での講師職・研究職への就職)を援助するシステムを体系的に構築するべきだ。また、各大学院は責任を持って博士号を取得したばかりの若手研究者を各自の大学で講師として養成すべきだ。行政も「総一億活躍」を標語として掲げるならば、それなりに若手研究者に活躍の場を提供すべきだ。(PD、男性、私立大学)

 私はタイミングがよく非常勤講師に応募することができ、どうにか独力で生活することができているが、もしそういった機会に恵まれていなければ今でもアルバイトに多くの時間を割いていたと思う。大学院生が研究に集中出来る環境整備ができれば良いとは思うが、その反面大学院生が一般的な社会人と同じ社会的なタスクを負っていないのも事実だと思うので、「大学院生が社会貢献しつつ、給与を受け取り研究に集中出来る」環境が理想だが、それは難しい課題だと思う。また、日本の場合博士号取得者の待遇は必ずしも良いものではないし、就職先に困る(無職の期間がある)ということはよく耳にする。私自身も現在とても不安を覚えています。これにより優秀で研究者になるべき人材が研究者になることを諦める、ということは以前から起こっていることで、日本の科学力をさらに向上させるためにも何か改善策を講じるべきだと思う。(D2、男性、国立大学)

■社会人院生の抱える問題

 社会人院生ですが職場は休職扱いのため、何も補助をしてくれません。健康保険や国民年金、区民税などを支払う額が相当高いです。夜勤、日勤を合わせると週3 日働いていて、まとまった休みを取ったことがないです。(M2、女性、私立大学)

 社会人院生として医師業務をしながら研究活動を行っているが,やはり日々の臨床業務がメインとなってしまい,研究に専念できているとは言えない.しかし収入を考えると仕事はやめられない.海外留学の希望もあるが,経済的に困難である.(D1、男性、公立大学)

 社会人学生として博士課程に進学し、年度によっては休学して仕事(事務職)に専念して学費・生活費を貯金しました。しかし大学の授業料減免制度では、一定期間以上休学をした者は対象外とされており、今年度の減免申請がかないませんでした。…また、JASSO 奨学金においても申請前年度の所得に制限があり、昨年度まで就業していた私は数千円の超過により申請を諦めざるを得ませんでした。…博論に集中するために退職して専業学生に戻ったものの、経済的不安が残り、民間の奨学金や研究支援事業への申請に時間を取られている状況です。一人世帯の学生が奨学金に応募する場合の所得制限の見直し、申請前年度だけでなく申請年度の家計状況にも配慮した審査体制の構築を強く希望します。(D3、女性、国立大学)

■現在の高等教育政策そのものへの疑問

 研究者を進路として選んだことが、自己の選択の責任にかかっているということは、一見してもっともらしく見えるかもしれないが、研究者なくして政治社会の長期的な視点は十分には確保できないと思う。その限りでは、研究者養成の条件を蔑ろにした今の政治に未来はないと断言できる。グローバル化の中で、大学のブランディングを進めていこうという政府の姿勢も、親しく接している留学生の置かれた経済的・社会的な悪条件を見るにつけ、酷く空祖な構想にしか映らない。文科省や財務相からすれば、財政の均衡云々が直近で重大な問題であることは想像に難くないが、それでもこれからの研究者養成に後ろ向きであっては、長期的には日本の国際的な地位の低下は免れないと思う。(M2、男性、国立大学)

 国家としての日本は、教育・研究に関わる人材育成に投資ができてなさすぎる。このままでは優秀な人材にもかかわらず研究分野に進めない人が増えたり、海外流出増加・国内流入減少が加速したりするだろう。エネルギー資源に乏しい我が国は人材資源が重要な役割を果たすことに、ちゃんと気付き、もっと向き合わねばならない。早急に具体的・金銭的支援をするべきだ。(特に国公立の授業料・大学への国家予算配分・奨学金返済負担関連)評価されるようなものになって初めて支援するのではなく、可能性の段階からもっと支援が必要。(D2、女性、国立大学)

 大学がただの営利企業になってしまっている。研究や人材の確保をきちんとし必要な財政出動を行い社会的責任を負うべき。教育への公的支出の低さへの問題を放置しながら国際化とは標語あるいは皮肉以外の何ものでもない。(OD、男性、国立大学)

 大学院を含めた高等教育全体に対して、国家財政・公的資金による援助をもっと増やす必要があると考えます。院生「個人」の進路や困窮をめぐる問題であると同時に、日本の学術研究「全体」に関わる問題でもあるという点で、「公」的資金の補助拡大を求めることには根拠があるはずです。「競争的資金」の「配分」という名で高等教育費全体が縮小することの限界・弊害が今日の問題に繋がっていると考えられるので、「基盤的経費」や高等教育への財政全体の増額を切に求めます。(OD、男性、国立大学)

おわりに

 本資料ではここまで、大学院生の経済的困窮、研究や将来に対する不安を明らかにしてきました。本アンケートの自由記述では、そういった苦境や不満を訴えると共に、国として次世代の研究者育成をおざなりにすることへの問題意識が語られました。本資料を締めくくるにあたり、自らの経済環境・研究環境についての大学院生の問題意識の声を取り出します。

 「大学院生の生活環境、研究環境の改善に向けて、戦ってくださっていること、すごく有難いです。私もお金に苦しんでいる大学院生のうちの1 人です。お金の問題で、結婚出産にも頭を抱えています。これ以上親には頼らない年齢に差し掛かってきています…また、前の指導教官からのアカハラ、パワハラのトラウマも抱えていますし、問題は色々とありますが、苦しくても研究は続けたいです。」(D1、女性、国立大学)

 全院協は12 月7 日に、以下の項目について文部科学省や財務省、国会議員への要請を行います。よりよい経済環境・研究環境のもとで大学院生が研究を行うことが出来るよう、アンケートで集まった大学院生の声や実態を、しっかりと伝えていきます。

■2018 年国会要請項目

  1. 国際人権A 規約13 条2 項(c)にもとづく高等教育の漸進的無償化
  2. 研究生活の基盤となる経済的支援の抜本的拡充
  3. 大学院生及び博士課程修了者の就職状況の改善
  4. 国立大学運営費交付金、私学助成の拡充
  5. 大学院生のライフプラン実現支援の強化