全院協ニュース

全院協ニュース第259号を発刊しました

タグ一覧:, , , , , , , , , ,

2020.06.12

目次

  • 新旧役員挨拶
  • 全院協とは?
  • コロナ禍で浮き彫りになった大学院生の困難
  • 《議長談話》給付制奨学金をはじめ、コロナ禍にあたり大学院生に対する支援の抜本的拡充を求める
  • 《声明》新型コロナウイルス感染拡大から大学院生の生活と研究を守るための緊急要求
  • 2020年度第1回理事校会議報告
  • 大学院生の研究・生活実態調査アンケートにご協力を!
  • 編集後記

新旧役員挨拶

2020年度議長就任挨拶

 全院協ニュースをご覧の皆さん、こんにちは。2020年度の全国大学院生協議会議長を務めさせていただくことになった一橋大学の梅垣緑と申します。

 2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大という、日本社会にとってほかに類を見ない社会的災害によって幕を開けました。院生の皆さんも、ご自身の生活や研究に直接の影響が出た方も少なくないのではないでしょうか。この社会的災害は、あらゆる階層の人々の生活の細部にわたって様々な影響を与えるとともに、とくにその経済的基盤がぜい弱な人々の生活を壊してしまうインパクトを持っていました。こと大学をめぐる状況に関して言えば、こうした事態にいたって、日本の高等教育とその中で研究を進める大学院生がいかに劣悪な状態に置かれてきたのかということがいっそうはっきりと明らかになったと言えるでしょう。

 また、1990年代から続く「大学改革」の問題はもちろんのこと、「高等教育の無償化」と喧伝されているこの間の高等教育政策においても、大学院生の位置づけは非常に不十分なものであり、そのことは修学支援新制度の対象に大学院生が含まれていないことなどにも端的に表れています。大学院生の生活と研究は優先順位の低いものであるとしてスルーされ、後回しにするのが現在の国の姿勢になってしまっているわけです。もとより院生の生活の切実さはこれまでのアンケート調査などによって明らかになってきたわけですが、コロナ禍が深刻な影響を与えるなか、こうした実態を社会に伝えていくことの重要性はいや増しています。
いま、あらゆる領域で、社会のそもそものあり方を問い直す動きが出てきています。60年におよぶ全院協運動の積み重ねは、そうした「問い直し」にあたってその議論に示唆を与えるさまざまな教訓が詰まったものであり、今般の状況における全院協の役割はその歴史的経過からいっても非常に大きいものです。大学が、そして大学院生が、社会のなかでどのようなものとして存在してきたのか。その権利と地位はどのように社会に根差しているのか。新型コロナウイルスに自身も罹患し、その後回復したイギリス保守党政権のボリス・ジョンソン首相の自己隔離中のビデオメッセージが大きな反響を呼びました。その発言は、かつて1980年代のイギリスで新自由主義を大いに経済と社会の中心にいざない、社会保障への国家の責任を自己責任と家族主義に転嫁したマーガレット・サッチャーの「社会などというものはない(There is no such thing as society)」という言葉を念頭においたものと思われる、「社会は存在する(There really is such a thing as society)」という発言でした。

 まさにいま、新自由主義と一体となった行財政改革によってその土台を崩されてきた大学の社会的な基盤の重要性と正当性、すなわち大学の「社会性」を取り戻すための運動が必要とされています。そしてそうした社会性のよりどころとなるのは、国民の学習権に根差した高等教育の本来あるべき姿であろうと考えます。こうした運動の重要な局面で議長という役職を担うことの責任の重さを痛感していますが、微力を尽くしたいと思います。

2020年度全国大学院生協議会議長 梅垣緑

前年度議長退任挨拶

全院協加盟校をはじめ全国の大学院生の皆さま、

 お久しぶりです。この度、2019年度全院協議長の任を解かれました佐倉宗吾です。

 はじめにコロナ禍により被災された大学院生の皆さま。「新しい生活様式」への適応に迫られたこの2カ月余り――皆さまにおかれましても大変なご苦労を経験されたのではないでしょうか。まず、こうした難局を耐え忍ぶ院生全員と連帯の念を共有したいと思います。

 さて、現下、我々の前には喫緊の課題がうず高く山積しております。具体的には、大学等研究機関の閉鎖、収入の減少ないし杜絶、高額な学費の支払い等々――その困難は推して知るべきかと存じます。では、こうした困難の原因は何でしょうか。私は、全院協のこれまでの取り組みに照らして見るに、その原因が従来の高等教育政策にあると考えます。すなわち、我々の立場からすれば、従来の高等教育政策が大学院の存立基盤を掘り崩すことによって、当の昔から大学院生は苦境に追い込まれていたのであり、コロナ禍による困難は従来の矛盾を露呈したものに過ぎないといえます。

 こうしたなか、2018年には高等教育無償化プロジェクトFREEが、19年にはChange Academiaが学生・院生の社会的地位を見直すキャンペーンを張ったことはまさに時宜を得た取り組みであって、全院協としてもこれら団体との間に連帯の環を結べたことに大きな意義を感じているところです。しかし、だからこそ民主的な組織活動を旨とする全院協が、どっしりとした構えで現在の「学費半減・一律給付」の旗を掲げる運動を支える必要があると考えます。20年は、まさにそうした60年の風雪に耐えた院生運動の底力が試される年でしょう。

 おわりに、個人的な感慨を述べることが許されるならば、こうした歴史的といってもよい難局において、運動のバトンを手渡すことに幾分申し訳ない気持ちがあります。というのも、2020年度全院協は確実にこれまでにない難業に取り組まざるを得ないと思われるからです。しかし、私は他方ではある種の希望も感じています。一橋大学における学費値上げ反対運動を闘ってきた梅垣新議長をはじめ20年度事務局員の顔ぶれは、科学者としての院生運動をいささかもゆるがせにすることのない陣容です。私はコロナ禍で支配的なイデオロギーが大きく動揺しつつあるなか、20年度全院協が必ずやこの難局を乗り越えてくれると信じます。最後に全院協が、今年度を院生運動の反転攻勢の契機として闘い展開することを期して、退任のあいさつとさせていただきます。

2019年度全国大学院生協議会議長 佐倉宗吾

関連記事