活動報告

2021年度の日本学術振興会特別研究員DC奨励費をめぐる問題

2022.03.23

令和4年1月18日
 2021年度特別研究員DC奨励費減額に対して説明を求める京都大学学生有志の会(13名)
代表メールアドレス:ko.yushinokai.2021@zeninkyo-jimu

 日本学術振興会(以下、「学振」)は、数少ない研究助成団体のなかでも、最も手厚い経済支援が受けられる機関の一つとして知られており、常に経済的不安定な地位に置かれている多くの若手研究者を長らく支援しつづけてきました。また、今般の新型コロナウィルス感染症の影響を考慮した科研費の補助事業延長や新種基金の創設など、学振は現在、様々な支援策を講じ実行しています。同会による厳正な審査により採択された「特別研究員DC採択者」は、月に20万円の給与に加え、研究計画に応じた研究費(特別研究員奨励費、以下「奨励費」)が別途支給される制度となっています。

 ところが、今年度(2021年度)の学振特別研究員DCにおける奨励費に関して、例年に比べて著しい減額措置がとられたことが各大学の教員・学生より報告されています。私たちが所属する京都大学を例にとると、私たちが把握する限りにおいては、今年度からのDC採択者、実に15名もの学生が、1)申請額の約3分の1にまで減額され、さらに2)同じ金額を配分されたことが判明したのです。(1)に関しては参考資料①にある表1、2を参照、2)の金額に関しては個人情報保護の観点から非公表とする)

1)申請額の約3分の1に減額された問題について

 私たちを含め、学振に対して疑問の声をあげている「2021年度特別研究員DC奨励費減額に対して情報開示を求める京都大学学生有志の会(13名)」(以下、京都大学学生有志の会)の全員は、海外調査を必須とした研究計画を予定していました。こうした事情から、私たちは「特別枠(上限150万円)」にて奨励費を申請しましたが、私たちに交付内定(2021年4月28日付)された奨励費は、「非実験系」(実験や海外調査の費用を要しない研究領域枠)の上限60万円よりも低い額でした。私たちは今回の減額措置により、研究計画の大幅な変更と縮小を余儀なくされている状況です。

2)同じ金額を配分された問題について

 問題は、減額処置という点に留まらず、私たち15名の学生ほぼ全員が、同じ金額を配分されたという点です。例年であれば、個々の研究計画書それぞれに見合った予算が考慮され、配分額が決定されるプロセスがあって然るべきです。しかし今年度は、15名の学生全員は、研究内容や渡航対象もそれぞれ異なるにも関わらず、一律に奨励費が決定されたのです。したがって私たちは、各特別研究員の研究計画書に見合った予算を配分するという審査手続きが適正におこなわれたか否かについて疑念を禁じえない状況です。

 以上の問題を、若手研究者の将来的展望および学問分野衰退に関わる重大な事案として認識した京都大学有志教員が、学振に対して情報開示を求める書状(参考資料➁)を提出いたしました(2021年5月21日)。その後、他大学の教員・学生からも同様の問い合わせが相次いだのだろうと推察されますが、学振は今回の減額対象者に追加交付措置をとることを、大学当局を通して下記の通り通知いたしました。

【5月末 日本学術振興会から各方面に送られた回答】
 令和3(2021)年度の特別研究員奨励費の新規研究課題につきましては、令和3(2021)年4月28日付けで交付内定を行ったところです。このうち、一部の研究課題については、応募額に対する内定額の割合(充足率)が著しく低くなりました。科研費では、人文学、社会科学から自然科学まで、全ての分野の研究を対象としていることから、原則的には採択となった課題について種目全体で同じ充足率を適用し、分野間での配分に著しい差が生じないようにしています。しかし、各年度の予算状況により、採択件数や配分額に差が生じることがあります。令和3(2021)年度の特別研究員奨励費においては、全体の限られた予算の中で、昨年度と比べ交付対象人数が増加したこと等により、結果として1課題当たりの配分額を減額せざるを得ませんでした。しかしながら、これらの研究課題については、特に充足率が低い内定額となったことから、今後の科研費の予算執行状況も踏まえた上で、追加交付の可否を検討しているところであり、詳細については6月下旬予定の交付決定後にお知らせする予定です。また、上記の内容につきましては、5月20日に各研究機関宛てに連絡するとともに、該当者のリストを示し、当該の者に対し、その旨を伝達いただくよう、併せてお願いしたところです。

 減額措置者に対する追加交付は、一律30万円(今年度2021年度分)に決定いたしました。私たちの現状を考慮いただき、追加交付を受けられたことは大変にありがたいことであります。しかし、下記に問題点をまとめましたように、学振による回答は、私たちの疑問に十分に答えているとは言い難いものです。なぜならば、今年度の学振の予算がなぜこれほどまで制限・縮小されたのかという点や、内定額、追加交付額がなぜ一律だったのかなどについては、学振から未だ正式な回答を得ておりません。したがって私たち京都大学学生有志の会は、下記についての情報開示を希望いたします。

3)情報開示を希望する点

  • 今年度の学振の予算がなぜこれほどまでに制限・縮小されたのか。
  • 上記を踏まえ、一部特別研究員DCの減額措置に対する決定はどのようになされたのか
    (一部特別研究員DCに対する内定額、追加交付額がなぜ一律に決定されたのか)。

 新型コロナウィルス感染症による経済的困難な状況においてこそ私たちは、日本学術振興会による経済支援に望みを託し、将来的展望を失わずに済むことを期待しておりました。しかし、今回の減額措置は、海外調査を含む具体的な研究計画がやっとの思いで実現されようとする矢先の出来事でありました。したがって、予算状況に関する情報開示や事前通知なしに、大幅な減額措置がなされたことは、私たちにとってなおのこと不測の事態であり、大変に残念なことです。学振においても、予算配分・執行状況について諸般の事情が生じていることは十分に推察されますが、これに関して日本学術振興会は、情報開示および十分な説明をおこなう義務があると私たちは考えます。

 以上、私たち「2021年度特別研究員DC奨励費減額に対して説明を求める京都大学学生有志の会(13名)」は、日本学術振興会に対して情報開示を求めています。

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