2020.03.15
全院協は、各大学院に存在する大学院協の全国組織である。そもそも全院協は個別の院協では対処することができない政治的課題に対応するために結成された。こうした歴史的経緯に鑑みれば、全院協の発展と個別の院協の発展とは不可分の問題である。したがって、加盟校拡大の問題は、全院協を構成する加盟校院協の発展と結びつけて考えられる必要がある。
しかし、近年、全国的な院協運動の衰退に比例して、全院協の加盟校院協は減少しつつある。2020年3月15日現在において議決権のある加盟校院協は5校に止まる(大阪市立大学、京都大学、中央大学、名古屋大学、一橋大学)[1]。2019年度も、こうした傾向に歯止めをかけるべく、全院協事務局としては、加盟校院協との意思疎通を位置付けたが、事務局の人的・時間的な制約と各加盟院協に固有の課題からこれを打開することはできなかった。
全院協には、大学院生の研究生活環境や就職状況など諸課題の改善を政治的なレベルで要求、実現していくという点で依然として大きな存在意義があると思われる。しかし、個別の加盟校院協の活動が停滞しつつあるなかで、全院協を加盟校院協に立脚した全国組織として維持することには困難が生じてきている。
他方で、自分の在籍する大学院には院協がない、あっても機能していないという大学院生のなかから全院協の存在を知って、活動に携わりたいという声も挙がっている。これは、各大学の院協が院生を包摂する機能を弱めてきた結果と考えられるが、全院協として、これらの声を無視するわけにはいかない。実態として苦難を抱えている多くの院生と全院協がどのように連帯していくか、組織として個人とのつながり方を見直さなければいけない時期に直面していると考えられる。
[1] 慣例として3年以上の加盟校分担金の納入が無い場合、該当する加盟校院協は権利停止処分となる。権利停止処分を受けた加盟校院協は、理事校会議など意思決定の場において、議決権を停止される。権利停止処分の問題として、同処分を受けた加盟校院協が、規約上理事校会議などの開催要件に影響するかという点で議論の余地がある。この点について現状においては、権利停止処分を受けた加盟院協が議決権を有しないことから、一般的に開催要件からを構成するものではないと解し得る。現在、権利停止処分となっている加盟校院協は、日本福祉大学、北海道大学、早稲田大学、龍谷大学がある。これらのうち、北海道大学は脱退の意思表示を行っているが、全代には不参加であり、正式な脱退の承認ができないままに今日に至っている。
以上のように、全院協がいかにして組織として個人とつながっていくかを考えた時、「個人加盟」を認めるということがひとつの方法として挙げられる。全院協が、個人として活動に携わりたいという声に正面から向き合い、困難を抱えた院生との連帯の環を大きく広げていくことは、今後の院協運動の発展――ひいては院生を取り巻く環境の改善のために重要な意味を持つと考えられる。
ただし、「個人加盟」を認めることによって、現在の加盟校院協に依拠した組織体系が動揺させられる恐れがあることも事実である。「個人加盟」の制度的な導入によって、院協単位での加盟が蔑ろにされ、なし崩し的に野放図な個人参加に陥ることは、院協運動の発展という観点からは本旨に悖るものである。各大学に独自の院協が存在することで、はじめて大学内の諸問題に取りくむことができる。したがって、「個人加盟」の制度的な導入も、中長期的な視点で、各大学における院協の結成あるいは再建に資するものとしなければならない。
こうした「個人加盟」の必要性と問題性とに鑑みて、2020年度への提起として、以下の4点に取り組むことを求める。
① 将来的な地域組織への展開を含め、全国規模での個人加盟支部(仮称)を発足する[2]。
② 個人加盟の制度的な導入に当たって、改めて全院協の活動の目的を明らかにした綱領文書を策定する。
③ ②に即して、規約の改訂を行う。
④ ①~③の取り組みのために、組織改革委員会(仮称)を発足する。
①は、現在の加盟校院協に基づく組織体系に即して、加盟校院協に並立する個人加盟支部を発足し、個人加盟を希望する院生は個人加盟院協への所属を通じて全院協に加盟する体制を確立することを提案するものであり、②は、改めて全院協の活動目的を明らかにした綱領的文書を策定することによって、加盟校院協に基づく組織体系の堅持を提案するものである。また、③は、②の綱領的文書の策定に即して、規約の改訂を行い、加盟要件を鮮明化することを提案するものである。そして、④は、以上の課題に取りくむため組織改革委員会の発足を求めるものである。
[2] 個人加盟支部の導入前後の全院協の組織体系、ないしは組織系統の変化を図示すると以下のようになる。従来の加盟形態を単位組織(院協)ごとの全員加盟方式だとすると、今回の提起は、個人加盟支部を設けることによって、それと矛盾しない形で個人加盟を集団的な形で認める方式といえる。
「個人加盟」の制度的な導入に向けた取り組みと並行して、既存の加盟校院協との関係をより密にしていくことが求められる。①権利停止校に対する権利停止解除に向けた対話、②オブザーバー校院協(首都大学東京、東京大学)に対する正式な加盟呼びかけ、③全院協の取り組みへの継続的な参加の呼びかけなどがこれに当たる。
加盟校院協の間には、依然として全院協に加盟しているメリットが乏しいという意見が少なからず聞こえる。こうしたミスマッチは、根本的には全国レベルの活動を支えることをコストと見なす考え方が一般化していることに起因していると考えられるが、全院協事務局としても全院協レベルでの活動と各院協レベルでの活動とを有機的に結びつける取り組みが不十分であったことは無視できない。したがって、今後一層、全院協として自らの活動が院協運動に持つ意味を明確にした運動の展開が求められる。