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2015.10.31
この間、国立大学のガバナンス改革や運営費交付金削減を通じて、国立大学運営に政府・文科省の意思を色濃く反映させるような政策が取られてきた。大学の自治を軽視し、学問の自由を侵害するものとして許すことはできない。一方大学院生においても、経済的困窮や重い研究費負担の中で、自由に学び研究することに障害を感じており、総じて憲法第 23 条で保障された学問の自由を奪うものである。
全国大学院生協議会(以下、全院協)は、日本政府・文部科学省に対し、すべての大学に「大学の自治」と「学問の自由」を保障するよう強く求める。
2015 年4月、「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」が施行された。
2014年8月29日には、各大学の学長に対して、本法の施行にあたって内部規則等の総点検・見直しの実施を求める連絡が出され、具体的な確認事項や留意事項を示すチェックリストが添えられた。
本法では、それまでの学校教育法第93 条の「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」という規定を破棄し、教授会を「意見を述べる」だけの諮問機関とした上、教育研究費の配分、人事、学部長の選任、学部・学科の廃止などといった重要な事項についても、学長の裁量に一切を委ねるものとした。また国立大学法人改定法では、学長決定権の全てをごく少数の者からなる学長選考会議に与えるものとなった上、第20条3項の「国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する機関」たる経営協議会の委員における学外者の数が、「二分の一以上」から「過半数」に変更された。これらは学校教育法の改定と相まって、経営に関する重要事項の決定を、学外者に委ねることを意味している。 以上の一連の動きにより、日本国憲法で規定される「学問の自由」を保障するものとして「大学の自治」と教授会審議を尊重してきた戦後日本の大学観は、根底から覆された。現在、②~④で述べるように急激な大学改革が行われようとしており、これらが学生、大学院生、教授会をはじめとする学内の意思に反する形で行われてしまうことに、強い危惧の念を表する。全院協は、教授会自治はもちろんのこと、大学院生を含む全構成員による大学の自治という理想を追求すべきと考え、本法制の見直しを強く求める。
文部科学大臣は、2015年6月8日、各国立大学法人に対し、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しについて」の通知を行った。通知では、人文社会科学系や教員養成系の学部・大学院について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」と明記した。これを受け、文系学部のある全国の国立大学60校のうち、半数近い26校が2016年度以降文系学部の改廃を計画していることが明らかとなった[1]。一例として弘前大学は 2016 年度より教育学の定員70 人削減・人文学部の人文社会科学部への改編・定員80 人削減、理工学部の定員60 人増という改革をすることになっている[2]。
人文社会科学の存在意義は、社会を批判的にとらえる研究、文化の多様性をはぐくむ研究であり、これこそ社会の進歩のために不可欠である。経団連も声明の中で分野横断的な発想をできる人物を求めており、大学の主体的な取り組みを最大限尊重するよう指摘している[3]。人文社会科学系を軽視するような政策は許されるものではない。
この間、文部科学大臣の会見の中で、本通知にもともと人文科学系全般の見直しの意図はなく、言葉のミスがあったとの発言があった。しかし近年の基盤的経費削減・大学改革の中で、実際に人文社会科学系が冷遇されてきたこと、たとえミスであっても文科省の通知が大きな強制力を持ちうることは否定出来ない。このことは先述の例のように、人文社会科学系を廃止し理工系へ転換する動きが見られたことに、如実に表れている。
全院協は、この文科省通知を撤回するとともに、抜本的な基盤的予算の措置を行い、人文社会科学系廃止に歯止めをかけることを求める。
[1] 2015 年 8 月 24 日付『読売新聞』参照。
[2] 2015 年 9 月 22 日付『朝日新聞』ほか参照。
[3] 2015 年 9 月 10 日付『朝日新聞』ほか参照。
2014年4月に「武器輸出三原則」を事実上撤廃し、「防衛装備移転三原則」が策定され、一定条件が満たされれば武器の輸出が許可されることになった。これを背景に、大学に対しても軍学共同が推進されている。防衛省の2016年度概算要求でも、「防衛装備品への適用面から着目される大学、国立研究開発法人などの研究機関や企業等における独創的な研究を発掘し、将来有望である芽出し研究を育成するためのファンディング制度」を推進するなど、防衛省の競争的資金制度が設立され、今年は9件が採用された。重大なのは、最初から軍事転用を目的としており、今回採択されたもののうち4件が大学であることである。さらに2015年10月には防衛省の外局である防衛装備庁が発足し、こういった流れは加速している。
戦前の日本は、大学が「国家ノ須要ニ応スル」ために設置され(帝国大学令)、戦中は国家総動員体制の下、学問も否応なく軍事に動員された。例えば、東京帝国大学(当時)は軍の全面的援助を受け、工学部の定員を倍にして分け、時間割には軍事兵器の科目やすぐに軍事転用可能な航空学科や電気工学関係の学科が新設された[1]。軍が技術者を必要としたのは、新兵器によって「効率的かつ有利に」戦争を進めようとしたためで、徴兵によるベテラン不足から大学での育成にかじを切ったという事情があった。戦後には、侵略戦争に大学が加担したという痛切な反省に立ち、1950 年の日本学術会議声明では、「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」という固い決意を表明した。今回の動きは、基盤的な資金を削減し、競争的資金を増やす中で大学に「自発的に」軍学共同の道を歩ませようとするものであり、議会制民主主義を軽視するやり方で成立させた安全保障関連法と連関し、国家が大学を従属させ、かつ戦争に加担しかねないものである。全院協はこの施策に対し、強い危惧を表明する。
[1] 2015 年 8 月 12 日付『朝日新聞』参照。
2015 年4月9日の参議院予算委員会で、安倍晋三首相が「(国立大学が)税金によって賄われているということに鑑みれば新教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべき」と答弁したことに端を発し、同年6月16日、下村文部科学大臣(当時)が国立大学に対して入学式・卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱の「要請」を行った。下村大臣は「要請」にすぎないとしているが、国立大学運営費交付金削減・傾斜的配分の強化によって、大学が補助金に依存せざるを得ない状況に追い込まれている中で、この「要請」が強制力を持つことは明白である。実際に朝日新聞の調査によると、回答のあった77 大学のうち、「要請」による影響があると答えた大学は38 大学だった[1]。
言うまでもなく、国旗国歌に対し個人がどのような姿勢を取るかは日本国憲法に定められる思想・良心の自由である。こと戦前戦中に「日章旗」「君が代」が国民統制と侵略戦争遂行に利用されたことにより、国の内外を問わず抵抗感を感じる国民は少なからず存在している。また現在大学には、国籍の異なる留学生や教員が多く在籍しており、彼らに一様に求めることにも大きな疑問が残る。文科省の資料においても、国歌斉唱と国旗掲揚は少なくとも国際慣行となっていない[2]ことは明らかであり、この意味でも、国旗国歌を強制する必要性はないと考える。
また、安倍晋三首相の「(国立大学が)税金によって賄われているということに鑑みれば新教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべき」という発言も大きな問題である。教育基本法には、第2 条第5 項に「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」という記載があるだけで、これは特定の行為を強制するものではない。さらに同法の第7条第2 項には「大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」という規定があり、「税金によって賄われているということ」から、大学に時の政権の意図に従うよう強制することは到底許されることではない。 以上より、国立大学への国旗・国歌強制の「要請」は思想・信条の自由の保証の上で問題があり、また大学の自治に露骨に介入し学問の自由を脅かすものであったとして、その見直しを求める。
[1] 2015 年 6 月 12 日付『朝日新聞』朝刊。
[2] 外 国 に お け る 国 旗 国 歌 の 取 り 扱 い ( 文 科 省 関 連 資 料 )
http://web.archive.org/web/20020820201859/http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/11/09/990906i.htm 2015 年 8 月 6 日参照。
これまで全院協は、アンケート調査等を通じて、大学院生の置かれている経済的実態を明らかにしてきた。今、高い学費と乏しい奨学金の中で、多くの大学院生が研究生活に支障を感じている。
全院協の2015年度アンケート調査においては、50.2%の大学院生が貸与型奨学金の借入経験があり、その約4人に1人が500 万円以上の借入をしていた。大学院生が高額の借金を背負うことは精神的負担が大きく、博士課程以上では、奨学金利用者の8割以上が返済に不安を抱えていた。こうした不安を抱える中で、有利子であるなら奨学金を借りることは諦め、アルバイトによって研究費や生活費を稼ぐ大学院生も多い。
大学院生の60.2%がアルバイトをしているが、9割が生活費と研究費を賄うためと回答している。研究時間が十分取れない理由として、アルバイトという回答が最も多かった。これは大学院生が、アルバイトによって本分の学業や研究に打ち込めないという深刻な事態を如実に示している。
日本は2012 年9月11日に国際人権A規約第13条2項(c)にある、高等教育の無償化留保の撤回をしており、それを実現する政策をする責務を負っている。またOECD加盟34か国のうち、学費無償化と給付制奨学金の両者を備える国が16か国、どちらかを備える国が17か国であり、日本はそのどちらもないという極めて遅れた状況にある。この国際公約に背を向けず、向き合うことが求められている。
しかし2015年5月11日、財政制度等審議会にて、教育環境の改善を名目に国立大学の授業料を私立大学並みに引き上げることが要求された。ここまでで述べたように、学費負担軽減は国際的な潮流であるとともに、大学院生の切実な要求である。国立大学運営費交付金削減と並行して学費値上げという「大学改革」を要求することは、研究費や書籍費、授業料をまかなうためにアルバイトをせざるを得ない大学院生の状況を鑑みると、到底許されることではない。授業料標準額の値上げではなく値下げに踏み出せるよう、高等教育予算の抜本的な増額を求める。 また同時に、貸与型奨学金では大学院生の経済的支援として極めて不十分であり、給付型奨学金の創設が求められている。しかし2016 年度文部科学省概算要求では、給付型奨学金については言及すらされていない。所得連動返還型奨学金の完備を優先としているが、この制度はマイナンバー制度を前提とした設計であるため、その完備を待って給付型奨学金の議論を再開することは遅きに失している。一刻も早く、給付型奨学金を創設することを求める。
2015年10月31日 全国大学院生協議会